いかにきずをキレイに治すか

中島先生

執筆者:形成外科専門医
中島由佳理
慶應義塾大学病院 形成外科

目次

きずへの治療

きずって?

今回は皮膚の「きず」についてお話したいと思います。まずきずには「傷」と「創」という漢字が用いられます。「傷」の方が一般的ではありますが、これは皮膚だけでなく血管損傷、神経損傷など様々な臓器のダメージも用いられます。一方「創」は、絆創膏では馴染み深いと思いますが、臨床現場では切創(切りきず)、挫創(ぱっくり皮膚が割れたきず)、弁状創(皮膚がめくれたきず)などで用いられます。皮膚のきずと言っても受傷機転やそのダメージによって異なり、治り方も変わってきます。

形成外科の外来をやっていると、「手術やケガのキズは消えますか?どのくらい目立ちますか?」など患者さんから聞かれることが多いです。手術や病気の内容よりもきずについての関心や心配、つまり皮膚にきずがついてしまった時に果たしてどこまでキレイに治るのかということを気にされていることが多いのだと実感します。次からはきずの治り方や手術について説明いたします。

形成外科ではきずに対して何ができるの?

形成外科はよくきずのスペシャリストと紹介されることが多いですが、私たちは日々の手術や慢性創傷の治療に触れながら、ずっと「いかにキレイに治すか」を考えながら診療に望んでいます。もちろん跡形もなく再生できるのが理想的ですが、手術ではどうしても表皮よりは深い層までダメージがあるため「きずあと(瘢痕)」は残ってしまいます。これをどのように工夫したら目立たなくなるか、最大限努力して形成外科の手術は行われます。特に表皮の下の層である真皮縫合をいかに元あった位置に戻せるか、注力して行っています。そして無事に皮膚がくっついて抜糸した後も、テーピングなどアフターケアも重要になってきますので、十分な説明を心がけています。

また目立つきずあとを改めて手術で修正することも得意としています。きずあとを単純に切りとって縫合しなおして綺麗に修正することもありますし、ひきつれが目立つきずあとにZ形成術という方法を用いて、よりキズを目立たなくしたりもできます。
術後のきずが肥厚性瘢痕やケロイドになる方もいらっしゃいます。同様に修正する手術の適応ではありますが、内服や電子線治療を組み合わせて行う場合もあります。

このような治療法は形成外科の歴史の中で培われた技術や経験であり、細胞レベルでの遺伝子発現の解析が可能となった現在では、そのきずあと(瘢痕)と再生治癒にテーマがおかれ日々更なる研究が進んでいます。

なぜきずができるの?皮膚は再生して治らないの?

「子供のころはきずはキレイに治る」と耳にされたことがあるかもしれませんが、実際、皮膚のある程度の大きさで深くダメージを負ってしまうとゼロにはなりません。それは生まれたばかりの赤ちゃんでさえ皆同じです。何故きずあと(瘢痕)になってしまうのかに関しては、皮膚の構成部分のひとつである真皮の深い層に存在する筋線維芽細胞が中心となってコラーゲンが大量に産生され線維化することで起きます。もちろん悪さをしているのは筋線維芽細胞だけではなく、ダメージを受けた際に守ろうとする免疫系の細胞集団の炎症も大きくかかわってきますし、キメの乱れは表皮の細胞も関係してきます。

そして残念ながらヒトの皮膚は再生して治りませんが、生物の治癒力は本当にすばらしく、複雑に絡み合って最短・全力で治癒へと向かいます。わずかなきずでも皮膚という最大のバリアが壊されていますから、皮膚の構成員である細胞たちは炎症を起こさず、ゆっくりキレイに治っている場合ではないのは至極当然のことであり、できるだけ迅速に治癒の方向性に動いていくわけです。
そこで、この元々の性質へ部分的に介入することで、ヒトのきずあとも現在の技術以上にキレイに治るはずであるという概念の下で研究が進んでいます。

当院では、これら最新の知見をもった医師たちが治療に従事しております。世界的にもこのきずあと、いわゆる「創傷治癒」に関する関心は高く、今後も更なる治療開発が期待されています。

手術したらどんなきずあとになるの?

手術で皮膚を切開し縫合する(縫い閉じる)と基本的には切開した範囲がそのままコラーゲンの塊、瘢痕という組織に置き換わります。いわゆる炎症期・増殖期・成熟期を経てそのきずは馴染んできます。赤みが消えて周囲の皮膚の色に近く、柔らかくなった馴染んだきずのことを成熟瘢痕と言いますが、手術をしてから半年〜1年経過したものを指します。このように成熟するまでは予想より意外に時間がかかるものですし、長期的なアフターケアも重要になってきます。抜糸したら終わりではありません。
さらに成熟する過程で、目立つきずあと、肥厚性瘢痕やケロイドになる場合もあります。この場合は前述したように、馴染んでから再度きずあと修正の手術が適応になることもあります。

目立つきずあとにならなくとも、一見周囲の皮膚の質感と馴染んでいるように見えても実際には真皮層では瘢痕組織に置き換わっており、切開前の状態と同じにはなっていません。瘢痕修正の手術でも表面上はきれいに見えても表皮の下は本来の組織より硬く線維化して周りの組織に癒着していることもあります。

形成外科では、このような強固な瘢痕組織の形成をできるだけ少なくするように例えば、皮膚をメスではガタガタしないようにきれい切開し、電気メスでは必要以上に浅い層で使いすぎず、組織を焼灼しすぎず、また脂肪層も一層ではないことに留意しながら剥離(はくり)する層を均一かつ最小限にして周囲からきずが引っ張られる力を極力なくすといったような技術をもとに手術に取り組んでいます。

まとめ

ここまで読んで頂きありがとうございます。今回は組織や細胞など少し堅苦しいお話になってしまいましたが、皮膚にできるきずの種類や形成外科ではどのようにきれいに治せるのかについて伝わりましたら幸いです。
きずあとの話をもっと詳しく聞きたい、このきずあとはどうなのか、最新の研究は何があるのか、など様々な疑問にもお答えしますので是非当院カウンセリングまでお越しください。お待ちしております。

<参考文献>

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